Scala先駆者インタビュー VOL.6  麻植さん(株式会社BONX/一般社団法人Japan Scala Association)

ScalaInterview

Scala先駆者インタビュー VOL.6  麻植さん(株式会社BONX/一般社団法人Japan Scala Association)

麻植さんならコミュニティの方面にも話題を広げられるかなと

-- 今回は前回の大村さんからのご紹介で麻植さんです。大村さんと繋がりある方の中でこの企画で次に話を聞いてみたい方として麻植さんをご紹介いただいた経緯を聞かせてください。

大村:吉澤さん、瀬良さんと続いて、その後、竹添さん、前出さん、そして私も前職がSIerだったということもあり、Web周りの事がキーワードとなって続いてきました。麻植さんをご紹介したのは、Scalaのコミュニティのエキスパンションにすごく力を入れられており、コミュニティの方面に話題を広げられるかなと思ったのと、お互いが興味を持っていて知り合うきっかけになったDeeplearning4J話を中心に機械学習の方面のことも話題にできればなと思いました。

-- この企画はごきげんよう形式で、次の人をご紹介していただいて繋がりがある二人を中心にインタビューをさせていただいており、当日の話を踏まえた上で次に聞いてみたい人をご紹介のお願いをするのですが、「麻植さんのお話も聞いてみたいよね」とあがる事も多かったです。

麻植:ありがたいことです(笑)

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-- 私の方から「〇〇さんをご紹介ください」というのはしておらず、流れの中でご紹介頂く形に乗っかりたいなと思っているなかで、大村さんの第一声が「麻植さんいかがでしょうか?」とでてきて、「おぉっ!!」となりました。

麻植:こうやって声をかけてもらえるのはとても光栄だなと思いつつ、自分が先駆者って言える所ってどこかな?と考えてみたのですが、なかなか難しいなと思うところが幾つかあります。

黎明期に日本でScalaを広められたのは水島さんだと思います。水島さんがScalaのカンファレンスを日本でやってみたいという声に賛同して、私もScalaコミュニティの活動をやりだしました。

Scala Matsuriの前身であるScala Conference in Japanに最初から関わっていたとはいえ、そういう背景の中でどんなお話ができると面白いかなと考えてきました。

コミュニティワークの輪としてできたこととして、日本のScalaコミュニティと海外のScalaコミュニティを繋げるというところは、私が先駆者っぽい貢献ができたのかなと思っており、そのあたりの話ができたらと思います。

アイディアの源泉を辿ると

大村:今年のScala Matsuriで、Scala By The Bayという大きなカンファレンスを主催しているAlexy Khrabrovさんなどを日本に招待して実施した、世界のカンファレンス集めた「コミュニティLTセッション」あれ良かったですね!

麻植:実は前から、「数あるコミュニティがどういう活動をやっていて、どういう人がいるのか知りたい」「コミュニティの活動を発表したい」という声がスタッフからもあがっていました。せっかく今回Scalaカンファレンスを海外でやっているオーガーナイザーが日本に来てくれることになったので、やらない手はないと思い開催直前にやりたい言ったら、大きな反対もなく実現しました。

AlexyさんとはScala Daysでお話させてもらっていたのですが、Alexyさんと仲が良いDeeplearning4Jの開発者のAdamさんから「AlexyがScala Matsuriに行きたいって言っていたよ」と聞き、また彼からもコンタクトをもらった後、やりとりも盛り上がり、イスラエルなど世界各地のコミュニティの方や、Scala関西サミットオーガナイザーのきの子さんなど日本各地のコミュニティの方の参加もあって、いい企画になりました。

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今年のScala Matsuriでは他にもパネルディスカッションなど、たまたまその場に来た参加者が集まって1つのコンテンツを作るという趣旨のセッションも多く開催されました。

過去にはコードクリニックという、Martin Odersky先生に希望者のソースコードをレビューしてもらえるセッションをしたこともあり、Odersky先生の指摘に「いやいやそれは好みの問題でしょう」という返しをする方もいたりして、とても盛り上がっていましたが、当時は内心ハラハラして見ていた記憶をしています。(笑)

Scala Matsuri開催にあたってこんな草の根活動をしてました

-- 今回のScalaMatsuriで印象に残っていることは、参加者が見たいセッションを投票する形式で、発表者の倍率がすごいことになっていたことでした。注目度のすごさを感じました。

麻植:カンファレンスのトークのクオリティは競争率に比例する部分も少なからずあって、その時に多くの方のサブミッションを集めたく、コミュニティ運営のイベントなので透明性を担保したいという思いがありました。

スタッフの一人であるEugene Yokotaさんのアイディアで、彼の好きな「NE Scala」というカンファレンスで採用されている投票制にインスパイアを受けて、議論した結果CFP(Call For Proposals)を試してみようということになりました。

-- ここ数年、Scala Matsuriはチケット発売から完売までがあっという間で、注目度・人気が高いカンファレンスです。そういうカンファレンスには発表者自らの申し込みも多いと思います。いつ頃から発表応募者の増加が顕著になってきたのでしょうか?

麻植:最初の2回、2013年と2014年には招待講演者枠という形で海外のMartin Odersky先生や当時LinkedIn社内でPlayの開発リーダーだったYevgeniy Brikmanさんなどに発表をお願いする事はありましたが、それ以外の方は招待というより、お声がけして勧誘して応募して頂く形でした。

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大村:今回はCFPのみでしたので、誰が来るかは投票が終わるまでわからないので違った意味で面白さもありました。主催者としてはスピーカーが埋まらない事も心配されたのではないでしょうか?

麻植:草の根活動として、1年前近くからアメリカで開催されたScala Daysをはじめ、他の世界各地のScalaイベントに出向き、多くの現地の方に宣伝しました。特に一番最初のタイミングで「CFPに応募してくれそう」という方を見つけるところからでした。過去にもOdersky先生が基調講演をするということがある前提で、話が広がったり次に繋がったりしていきました。

一番最初にどういう人がしゃべるか、誰が応募しているかは誘引力としては重要でした。

実は当初Scala Matsuriは2015年の秋にやる予定だったのですが、アメリカのイベントでScala Matsuriのことを伝えると「日本に行くんだったら冬がいいな。スノボやスキーがやりたい!」って言う人が多かったんです(笑)

いつの間にかスノボやスキーの話になっていたのですが、改めて落ち着いて話をきいてみたところ、Scalaはそもそもスイス工科大学で作られた言語で、近隣にコアな関係者が多く、土地柄アルプスも近くてスキーをたしなむ方・好きな人が多いのです。

あまり知られていないのですが、日本は世界有数の豪雪地帯で雪質がいいことで有名なんです。北海道のニセコは海外の方に大人気で、Lightbend社の方達がScala Matsuri直前にニセコツアーを組んでがっつり滑って、その様子をTwitterで流されていました。

今の話はカンファレンスのコアとは関係ないですが、片道12時間のフライトで来てもらうとした際に、カンファレンスの魅力だけで勝負するよりもプラスアルファの楽しみがある方が来たくなりますよね。

そういう事を考えて日付設定するのはそれほど間違っていないと思い、Scala Daysの初日に日本のスタッフとチャットで議論をしたら合意がとれたので、2日目に「冬にしたよ」と言ったら、とつぜん肩を組まれて「Great Decision!(素晴らしい決断だ!)」と言われました。(笑)

そこで話をしていた人が真っ先に複数本CFPを出しくれて、その時のメンバーがLightbend社CTOのJonas BonérさんやAkka開発者のKonrad Malawskiさんなどでした。

こういう事が誘引力となって広がり、CFPでたくさんの方に応募していただき盛り上がったんだと考えています。

-- いい連鎖反応ですね!

大村:Konradさん含むAkkaのコアコミッターの方達やOSSで活発に活動している方達がいらっしゃって、そういった方達とScala Matsuriで議論できてよかったし、アジアのコミュニティをアピールできたいい機会だったのではないかと思います。

麻植:そうですね。

世界と日本を繋ぐということは

--アジアや日本は海外からどう見られているのでしょうか?

麻植:海外の方が日本のScala Matsuriに来て口々にするのは「コミュニティの大きさ」と「活発さ」です。

Scala Matsuriは世界で見ても5指にはいる規模だと思います。おそらく3位くらいの大きさです。
世界各地にはたくさんのカンファレンスが存在し、200人くらいの規模が多いですが、Scala Matsuriは500人規模で、一段階大きい、数少ないカンファレンスです。

-- コミュニティの形成は簡単ではないように感じます

麻植:はい、いろんなバックグランドの方が集まると、イデオロギー同士の衝突があります。イデオロギーは星の数ほどあり、カンファレンスとしてはイデオロギーに関わらずできるだけ多くの人が集まれる環境にしたというのは、コミュニティ主催のイベントはどこも持っていると思います。

それを、どういう風な思想にするかは行動規範に現れてきます。スタッフでは他の事例をシェアして参考にしあったり、Scala Matsuriのケースに照らし合わせ議論したりしています。

-- 汎用的につかえる行動規範や麻植さんのScala Matsuri2016のふりかえりブログエントリーを拝見しました。

麻植:私の中であの記事を書いたのには理由があります。

Scala Conference in Japan発起時のことです。発起人の水島さんと話した際に「日本のScalaコミュニティがどんどん大きくなっていくとはいえ、海外のコミュニティとはまだ距離がある。そういう所を埋めるイベントを作りたい」というのが経緯となって始まりましたが、最初の2回は海外からの一般参加者がほとんどいませんでした。

今回のScala Matsuri 2016では招待ではなく一般参加で海外から参加したり、CFP応募してもらったり、言葉の壁があったにもかかわらず楽しんでもらえました。4年越しでようやく海外コミュニティとの交流が実現でき始めたな、ということを1日目で感慨深く感じたので、ああいう感じのブログをまとめてみました。

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モチベーションは「楽しんでもらえる」という喜びから!

-- カンファレンスのエピソードやふりかえってみて楽しかった思い出はありますか?

麻植:楽しかったことは、ScalaTestの作者でScalaスケールプログラミング(通称コップ本)の共著者でもあるBill Vennersさんから、Scalazのメンテナの吉田さんとしゃべりたいから紹介して欲しいと言われて、懇親会でその二人の会話を通訳していたのですが、それがすごく楽しかったです。

大村:いいですねー。

麻植:その時の様子は吉田さんのブログでも紹介されているので、もしよかったら見てください。

生で温度感を感じながらみていると、コミュニティの人間模様が見えるところに面白さを感じます。実は○○さんが××さんのファンだったりすることも少なくなく、Bill Vennersさんは完全に吉田さんのファンでしたね(笑)

技術的に面白いので勉強になるし、海外と日本の人が繋がった瞬間でした。また、そのディスカッション結果が今後ScalaTestにも反映される可能性もあり、こういった機会を提供できたのが面白かったし、いろんな楽しさが凝縮した瞬間でした。

-- これだけのことをするにはモチベーションがないとできないと思いますが、やりがいやモチベーションはどこから湧いてくるのでしょうか?

麻植:(ひと呼吸おきながら)私の場合は「自分の開催したイベントに来て楽しんでくれている」というのが、一番嬉しいです。そのイベントだけに終わらずにイベント後に繋がる方もいて、「当日学んだことを活かしてこういうことをやり始めた」という人や、「興味や関心がわき仕事の方向性を変えてみました」という人、こういう話を聞くとうれしくなります。

自分が貢献できることがあるというのもモチベーションになります。 最初のキックオフミーティングのできごとです。各自の役割を割りふってみたのですが、誰も手をあげないポジションが1つだけありました。「経理」というポジションです。

ややこしいし、責任もあるし、エンジニアとしてはそれほど好きな役割ではないですよね。 昔に経営管理やイベントの収支管理を仕事でやっていたことがあり、私としては苦にならないので「私でよければやりますよ」ということで、「経理」という役割を引き受けました。

海外交流を狙ったカンファレンスということもあり、以前公用語が英語の職場にいたこともあったので、ある程度コミュニケーションもとれると思い、「これは自分の好きな領域で自分ができることが多く、かつ需要もある」ということで、ピタッとはまったなという実感があり、モチベーションが湧いたことを覚えています。

基本的にコミュニティ活動は自分の時間を使ったボランティアワークなので、「うれしい」とか「楽しい」など自分にとってメリットがあるから、継続して活動できます。

実際、他のカンファレンスではオーガナイザーがオーバーワークで継続難しいから開催を断念することになったり、そこまでいかずとも無理がすぎてネガティブになってしまった事例もしばしば目にします。やはり活動そのもの自体が楽しいからこそ続くんだと思います。

-- 社内勉強会や小さなコミュニティでも通ずるものがありそうですね。

麻植:そうですね。私もタイミングが合った時に参加している「rpscala」という5年くらい150回を超えて続いている勉強会があります。僕を含めたオーガナイザーの中で継続性の話をしたときに「続く秘訣はゆるさですね」と話題になりました。

毎回特定の人たちだけでネタを用意して発表してたりするとネタはすぐ尽きますし、来れないこともあります。コアメンバーの仕事が忙しくなってこれなくなってしまうと、勉強会が続かなくなってしまいますが、rpscalaの場合は発表会のネタは誰が用意するかは明確に決まっていなくて、その時にしゃべりたい事がある人に手をあげてもらったり、しゃべることがなければ、その時のホットなScala界隈のニュースを紹介して、リリース系の話題だったらどんな機能があるかをみんなで見てみたり、質問から広げてその場で座談会になったりして、毎回空気に合わせてやることがかわり、最後に飲みに行くというような感じを続けています。

こういったゆるさで誰も疲れないというのが、コミュニティを長く楽しく続ける秘訣なのかもしれませんね。

大村:いい話ですね。

麻植:Scala以外でいえばもっとコミュニティ活動を長くしている方もたくさんいらっしゃるので、そういった方の話もぜひ聞いてみたいですね。

麻植さんの魅力は人柄以上にオーガナイズ力がすごい所です

-- 最初にお聞きすればよかったのですが、大村さんから見て麻植さんの魅力ってどういうところでしょう?(笑)

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麻植:まずは、ありますか?(笑)

大村:(笑顔で)あります。

麻植:よかったです。(笑)

大村:さきほど、人見知りとおっしゃってましたが人当たりがいいですよね。 私にはない、イベントオーガナイズ力や人をひっぱってくる力などはすごいなぁと。

人柄以上にオーガナイズ力がすごいです。「やります」だけでは、人は集まるかはわからないし、集まったとしても形にすることは難しく、場を共有して色んなことが事が起きる・形にされているところは私では到底できそうにありません。

麻植:私はある種強引なところもあります。

その場の雰囲気に任せて導き出した結論の方が納得感がでやすい課題と、誰かがリーダーシップをとってガンガン決めないと前に進まないと課題があって、最近はそこをかなり意識的に区別するようにはしています。

裾野の広がりは知名度ある企業の情報発信も大きいのでは

-- 話は少し変わってScalaと企業についてはどうでしょうか?

大村:Scalaは水島さんが草の根的に広げ始めた時から思い出すと、今はこれだけ企業のスポンサーさんがついたり、企業さんがイベントの企画をしたり、このScala先駆者インタビューもその一環だと思いますし、「よく育ったなぁ」という感じがありますよね。

麻植:そうですね。最近は自分が思う以上に裾野が拡がっている印象があります。

-- 裾野が拡がったり実感があるとのことですが、どういう風に感じていますか?

麻植:ドワンゴさんがニコ生のバックエンドをPHPからScalaに切り替えた成功事例があって、その後ドワンゴさんにどんどんScala界隈の人材が集まってきて、そこで得た知見やScala関係の情報を発信してくれている動きがあったのが、大きいのではないでしょうか。

他にも事例でいうとサイバーエージェントさんのAdTech Studioもコミュニティ活動に力を入れてくださっています。Scala Matsuri2014の時に開催直前に当初予定していた会場が使えなくなって困っていたところ、サイバーエージェントさんが会場の場を提供してくださり助けてくださってなんとか開催できたということがありました。今年開催した2016年の時も大きな会場全体でWifiを使えるように全面的にサポートしてくださいました。

AdTech StudioではScalaの活用も全面的にされており、Scalaエンジニアの人数も日本有数な規模です。またブログで情報を精力的に発信されています。

大きい、知名度のあるWeb系の企業がScalaを採用した事を積極的に発信・展開をしてから、一気に国内でScala採用が加速したなという印象がありました。

その他の企業さんもスポンサードをする以外に、コミュニティ開催のイベントを支援していただけたり、自らコミュニティイベントを開催(Scala将軍達の後の祭り,Scala大名の平成維新〜殿中でScala!〜)されてたりしますし、企業としても個人としても活動がアクティブになってきています。

ChatWorkさんもScalaにリプレースしますという事を発表され、その後かとじゅんさんや大村さんが入社され私の中で大きな驚きもありました。

大村:そうでしたね(笑)

実は「人見知り」だったという衝撃の事実...

-- 人をつなぐということを麻植さんはよくされているように思います。私は人見知りで恥ずかしがり屋なんですが、初めての人と繋がっていく楽しさはありますか?

麻植:私、実はけっこう人見知りなんです。

周り:えぇぇ!!(笑)

麻植:知らない人の中に入るのは気疲れします。意識的にギアをあげないとうまくしゃべれなくて、海外カンファレンスの前日に「XXのホテルで飲んでいるんだけど」とGitterなどでつぶやかれているんですが、少し悩んで「よしっいこう!」と気持ちを奮い立たせて行きます。

顔見知りがいないときは、すみっこの辺りで私と同じようなシャイなエンジニア同士でたわいない話をしながら飲んでギアを上げつつ、移動のタイミングでグループで話していた中心の人たちに話しに行くようなことが多いです(笑)

誰かと繋がることが楽しみではなく、結果的に仲良くなるとすごく楽しいので、自分の中でハードルは高いのですが、乗り越えた先に「何か楽しい事があるかもしれない」と思って奮い立たせてがんばると、結果として楽しい事が多いです。

-- 結果的にたのしい。結果的にリア充ですね!

大村・麻植:(笑)

麻植:はい、結果的にたのしいですね(笑)

大村:日本の文化は恣意的に人脈を作るのは打算的と言われ「いいこと」ではなく「ちょっと違うんじゃない」と思われがちですが、海外では自分がしたい事があったり得たいものがあった時に、それを人脈から得ようとするのはオープンなことで、シリコンバレーではmeetupは星の数ほどありますが大抵ネットワーキングの時間があります。

そこにお酒や飲み物があって、みんないろいろしゃべります。 あまり興味がない人同士が会って少ししゃべってダメだったら結構ドライで「じゃ、またね!」という感じで、波長があって求め合うものが違うだけで、嫌っているわけじゃないです(笑)

そういう文化もあります。

麻植:よくわかります。

そういう機会を利用して、カンファレンスが始まる時にちょっとしゃべった事がある人を見つけたり作っておくと、会話のハードルがぐっと下がります。

ドライにいろんな人としゃべってみてもいいのですが、この人しゃべりやすいなという人がいたらカンファレンス会期中にも「おはよー」とか「次このセッション行くんだ」とか「さっきのセッションでの話はどうだった?」などたくさん声をかけてみます。カンファレンスを通してしゃべれる相手ができるし、楽しそうに会話していると、通りがかった人が「ハーイ!」と会話に入ってきて、新しく繋がりが増えてきます。

しゃべりたい人がいても直接行くよりも、楽しそうな会話の輪を作って、移動しながらしゃべりたい人を巻き込みに行くというようなこともします。最終的に会話もはずみますし、お互いの良い印象で終えれますし、そのときに何かの勧誘をすると効果が高いというのは感じています。

第二言語だと、自然に任せた文脈でのコミュニケーションが難しいので、できるだけ自分が話しやすい土壌を作るなど、工夫したりしています。

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OSS活動やディープラーニングの話も聞かせてください

-- コミュニティ以外の話題で大村さんが麻植さんに聞いてみたいことはありますか?

大村:コードで海外を繋ぐという意味で、ND4SというOSSの活動についても聞いてみたいです。

麻植:JVM上で動くDeepLearningのフレームワークに関わったOSS活動をしています。DeepLearningはニューラルネットワークを使って学習をさせるための機械学習の一分野です。ニューラルネットワークでバックエンド計算する時にN次元行列計算で進行するので、そのためN次元行列計算をできるライブラリが重要になってきます。

計算速度やAPIの豊富さなどが、性能と使いやすさに大きく影響してきます。 DeepLearning4JというフレームワークではND4JというN次元行列計算のJVM用のライブラリを自前で用意しています。ただ、DeepLearning4J・ND4JともにJavaで実装されているので、Scalaから触りやすいようにするライブラリがND4Sで、ND4Sを私が作ってメンテナンスもしています。

大村:国内でも世界的に使われるライブラリやフレームワークを開発されているすごいOSS開発者の方はいますが、普通のScalaプログラマ方たちが海外のOSSにコントリビュートしていけばいいか、きっかけのつかみ方など聞かせていただけないでしょうか?

DeepLearning4JやND4Jをほとんど一人で開発していたAdam Gibson(インタビュー記事1, 2,GitHub)さんとやりとりしてND4Sを公開されているので、どうやっているのかなどTipsはありますか。

麻植:貢献をする時の敷居を下げたり、第一歩を踏み出すためのTipsという話しですね。

私の場合は「相手の事を知っているか」というのが大きいです。相手の事を知っているとちょっとした時にやりやすくなります。最近ですと、さきほども紹介したGitterが最初の敷居をさげるのにとてもいいと思います。

GitHubのIssueだとコミュニティによって作法もあったり、プルリクエストも一定の規約などを設けている場合もあります。Gitterのチャットでは最初に触り始めた時にバグなのか自分の使い方が間違えているのかを気軽に聞けます。

大村:私もプルリクエストを出して直された事があります(笑)

麻植:作法は「for Contributors」というような形で諸注意をドキュメント化されているところもあれば、IssueやプルリクエストやMLなどを読んで空気を読んで知るというケースもあります。

それだと敷居が高いですよね。 Gitterが普及してきて気軽に聞けるので敷居が下がったとはいいつつも、完璧を求め全部調べつくした上でプルリクエストを送ったりIssueを立てるようなことは大変なので、GitterやTwitterなど聞きやすいところで聞くようにしてます。聞きやすい環境を使う、というのを私の中で大事にしています。

ND4SはDeepLeaningを勉強する過程で作るにはちょうどよかったというところもありました。なぜこういう仕様になっているかも聞きました。

作法や運営の丁寧さはOSSによって違うので、カジュアルに話せる場がもっとあるといいのではないでしょうか。 コミュニティの話にもつながりますが、モメンタムを作るというはカンファレンスや勉強会などで一緒にワークショップをした・立ち話をしたという経験の影響は大きいと思います。

Adamさんとの関係もそういった感じで仲良くなって、チャットでのコミュニケーションしてディスッカッションできるまでに発展しました。最初のコミュニケーションの下地があったからこそ、できたことかもかもしれません。

最初から対面が難しいと思うので、近くにそういう事をやっている友達や日本で活動している人の話を聞くのはすごく参考になると思います。

-- お話を聞いていると麻植さんが人と人とを繋ぐ架け橋となって何か連鎖的にアクションが起こっている事も多そうですね。

麻植:架け橋といっても本人のOSS活動がベースにあるという事が大きいのですが、リアルに会ったことによって心理的距離が近づくというのはオープンソースでもプラスに働く面があります。たまにマイナスに働いちゃうこともありますが(笑)

そういうところは私は積極的に支援できそうですし、海外のOSSとの距離を近づけるという意味でも良さそうですね。

普段のお仕事で麻植さんはどんなことをされている?

-- フリーランスとして働いているとのことですが、お仕事でScalaを書かれているのでしょうか?

麻植:最近ですとAndroidアプリをScalaで作っています。他にもScalaのトレーニングとして、最近ですとセプテーニ・オリジナルさんのScala新人研修を行わせていただいたりもしています。その他の活動も細々としています。

-- Scalaの導入支援や教育サービスは、Scalaをやり始めた会社にとっては底あげやScalaらしい書き方などを知れる足がかりになるのでいいですね。

麻植:これからそういう需要も増えてくると思いますし、Scalaのコミュニティが大きくなっている状態なので、新しくScalaを採用される企業などでScalaが経験豊富な人がいないというケースも少なくないです。

そういった時に私もサポートできたらうれしいですし、最初に採用した時にくじけずにプロダクトとして波に乗れて、一つ目のステップを超えられる会社が増えれば増えるほど、日本全体としてもScalaの次の波がくると思います。

Scalaのエンジニアが欲しいという話であれば、アプローチの仕方やアドバイスなどちょっとした相談にのらせてもらう事もあります。

また今年の6月からアウトドア向けのウェアラブル端末とアプリを提供している株式会社BONXに入ることにしました。創業期から業務委託でお手伝いしていたIoTスタートアップなのですが、昨年秋のクラウドファンディングでは2500万円超とIoTプロジェクトの中では当時の国内最高額となる支援を集めたりと、今まさに伸びているスタートアップです。

優秀なメンバーに囲まれた仕事自体も面白いですが、アウトドア好きな人たちで構成されていて、たとえば冬場は平日開発して、土日に同僚たちとスノボにでかけてフィールドテストをする、みたいな生活をしたりと、とてもユニークな文化が形成できていることを気に入っています。

-- Scalaと関係ないかもしれませんが、フリーランスのよさはありますか?

麻植:人それぞれだと思います。私自身はフリーランスが大好きというわけでもなく、今までではフリーランスのような働き方をしたほうが選択肢が広く持てるので続けていたという感じです。

コミュニティワークをしていると時間のフレキシビリティが効くのはいいですね。自分で調整できるフレキシビリティがないと潰れてしまうので、コントロールしやすいのはいいです。ちなみに株式会社BONXでは、そのあたりの私の特殊事情について配慮をしていただいていますので、ScalaMatsuriなどの他の活動も当分続けられそうです。

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興味があることやこれからに向けて

-- いろんな方と関わることが多いと思いますが興味深いことを教えてください

麻植:LightBend社が今後どういう方向に行くかは興味あります。 それと、世界の主要ベンダーも集まってできたScala Centerがどうなっていくかです。

Lightbend社には最近色々な新しい動きがあるので興味深くみています。オープンソースをビジネスにするのは難しいことです。言語だけで儲けるのはハードルが高く、言語というコアの技術をもちつつ、どこに手を伸ばしていくのかというにが気になります。言語のコミュニティとしても持続可能で、なおかつ会社としても有益になれるというところが示せるといいですね。Lightbend社には成功して欲しいです。

-- 最後にこれからについて一言お願いします

麻植:コミュニティ活動なので私一人の一存で決まるわけではないのですが、もっと海外との垣根をとっぱらえたらと思えます。海外からの参加者を増やしたいし、日本から海外のカンファレンスに行く人が増えたらもっと楽しいなと。なおかつ、海外に行った時には日本から来た同僚だけで固まらず、色んな参加者とコミュニケーションをとってくれる人が増えるともっと楽しんでもらえるだろうなと。

逆に海外から来てもらった時にも楽しんでもらえるようになれればいいですね。海外カンファレンス常連組が顔を合わせて話せる機会以外に、一般の参加者さんとも話せてもらえる状況をどうやったら作れるかなぁと。

楽しみ方はそれぞれなので一概には言えないですが、楽しみ方を両方選べるようにできたらいいなと。 他にもいろいろチャレンジしてみたいなと考えていることはいろいろあるので、いい場を提供できるようにがんばっていきます。

-- 次回に繋げていきたいので、今日の話しの流れも踏まえ、麻植さんや大村さんがお話を聞いてみたいと思う方をご紹介いただけないでしょうか。

麻植:実は先駆者といえばこの人以外ありえないだろう?という方がいて、なぜか今まででてこなかった方がいらっしゃいます。なにか意図があるんじゃないだろうか?と思ってしまうくらいです。真っ先に名が浮かんだ水島さんをご紹介いたします。

-- ありがとうございます!本日は長時間どうもありがとうございました。

出席者

  • インタビューイー 株式会社BONX/一般社団法人Japan Scala Association 麻植
  • インタビューワー アットウェア 浅野・三嶋、 ChatWork 大村